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「これまでの100年、これからの100年」(科学論) 池内 了 著 岩波世界4、5月号 読書ノート

「人々に便利さと効率性をもたらしてくれるはずなのに大きな災厄を招いた科学、あたかも自然を征服したかのように振舞っている傲岸な科学者、そのような科学と科学者の歪な姿に失望しながら、なお科学にしがみつかざるを得ない現代の文明をどう考えるべきなのだろうか、…100年をかけて人々と科学の有り様について転換を図らねばならないと思ったためである。」
現代科学の『異様さ』の原因などについて
① 科学の『異様な』細分化とその弊害― 350年続いているデカルトが唱えた科学の方法の「要素還元主義に起因する重大な問題点が露になってきた。…その結果、学問分野が細分化され…科学者はごく狭い範囲の専門家に過ぎなくなり、全体を俯瞰し総合化する観点が吹き飛んでしまったのだ。「要素還元主義とは、目前にある現象をより根源的な要素(部分)に分けて徹底して調べれば法則や反応性がより鮮明に現れ、部分の和は全体になるという信念に基づいている。科学の王道として君臨している。
② 「科学者はそのような『複雑な』問題が多くある(気候や気候変動、地球温暖化を始めとする地球環境問題、生態系の危機、地震予知、微量放射線被爆問題、人体や脳の現象と医療問題、等)ことを知りながら、それに触れることなく、見て見ないふりをしてきた。…そのために誤解が生じ…全ての事象は要素還元主義の科学によって解明できるとの錯覚が生じたのである。…ようやく東日本大震災によってそれは粉々に砕かれることになった。…水俣病、原爆被爆者の認定で、要素還元主義的に複数の典型的な症例がなければならないとしてきたが、…人体は複雑系であり、人ごとに症状が異なるのが当然なのだから…、不確実な科学知しか得られない複雑系に対して…要素還元主義に慣れきった見方では大きく間違う恐れがあるのだ。現代科学はそのことに留意を払わず、無視してきたことを、『異様』と言っているのだ。
③ 『新発見』の過大な評価、ビックサイエンスに見る『異様さ』。「…科学者は次々とスケールアップして装置をねだっていると言えよう。…かつて宇宙開発に対して『社会の貧困を放置したままにして、何の宇宙開発か』という疑問が呈せられたが、次々と大予算を必要とする科学とどうつきあうべきか、じっくりかんがえなければならない」「地球環境の変化を読み取り、生態系の遷移を追跡する」等の複雑系のデータの集積・このような地味で時間のかかる仕事への評価は高くなく、無視されがちである。・人類の未来はこのようなデータを必要としているのである。新発見ばかり評価する『異様さ』をしっかり押さえておくべきだろう。」
④ 「科学者は、自分が関与した科学の成果が将来何をもたらすか想像でき、それが大きな災厄に結びつく可能性があることを十分知っている…それにもかかわらず、科学は社会から全面的に負託をうけているかのような顔をして、今さえ巧くいけばよいと現世の利益のために奉仕している、それは『異様な』光景ではないだろうか。その典型は原発…。遺伝子組み換え作物を大々的に推進しようという科学者もいる…、正邪の判断は後回しにしてしまうのだー原爆開発のマンハッタン計画、iPS細胞の応用はどう進むのか、出生前診断は人間の選別に何をもたらすのか、…それらは科学のみの判断で決められることではなく、哲学や思想や心理学や認知学など幅広い分野の意見を参照にしながら社会として選択していかばならぬ問題群である」
⑤ 「よく『産官学の融合』と言われるのだが、実態は産に官が従い、官に学が従うという従属関係であり、『異様な』構造である。…産業界の近視眼的な目標のために国家を通して科学が動員されていくことが『国益』なのだろうか。
「現代の科学技術文明は要素還元主義の成果の上に成り立っていると言っても過言ではない。要は、要素還元主義が通用しない複雑系をどう捉えるかであり、曖昧な科学知しか得られない科学とどう付き合うかである」「さらに私は『最初から非倫理性を含む科学・技術』もトランスサイエンス問題(科学を超えている問題)に含めたいと思っている。」-「原発は反倫理性を必然に帯びている。①その大きな潜在的危険性から過疎地に押し付けていること ②ウランという放射性物質を扱うために、採掘・精錬・装填・定期検査・廃棄物処理・廃炉の全過程において携わる作業員に放射線汚染を押し付けること、③放射性廃棄物を10万年にわたって厳重管理することを、子孫に押し付けていること ④事故が起これば立地する地域や人々、そして全世界に放射性汚染を押し付けていること」

「トランスサイエンス問題を考える上で私が検討している科学以外の論理は」①『通時性の思考』―常に未来への影響を考える… ②『予防原則』 ③『功利主義への疑い』である。
科学者の評価の視点を変える― 「科学者の評価基準は、ほとんど論文の数におかれている。」研究費の獲得もそれによる。…
「民主主義の必要条件である、個人が責任を持って決定し実践の主体となるという精神、を忘れて単に多数決を形成する(獲得する)ことのみが目標になっている。

☆ そして著者は、最後に『オープンサイエンス』が必要だと言う。「より多くの人間が文化としての科学に親しむこと、科学者の役割はその手助けをすること」と言う。
◎ この100年間の分析は説得力がありますが、これからのことは、説得力欠けている、ようですが。
   科学では、未来の提言は出来ないのかな?
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【山好き、旅好きの団塊世代日記】 当ブログは2007/1/29に運営開始いたしました!





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プロフィール

高田 学

Author:高田 学
少年時代は海と戯れ鎌倉育ち、故郷を離れ北海道で学業。その後東京にて工務店経営。
環境(省エネ)には特に詳しい。廃業後自由人。

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