◎1895明治28年12/25生まれ、24歳で渡欧、のち、妻・森美千代との関係打開のため?夫婦で東南アジアから欧州へ、5年間放浪。1945年50歳の時、兵役拒否で息子を虐待?1975昭和50年6/30死去
☆ 放浪で心の柱を太くした真面目な詩人。『マレー蘭印紀行』『どくろ杯』『ねむれ巴里』等散文も秀逸
詩集・落下傘より「あけがたの歌」抜粋編集
燈を消そう。そのうちもうあけがただよ。/ ・ひらかれた窓からながれいる/ 爽やかな悲愁
略/ 遠い海峡の潮の音/ かへらないためにとびたつ/ 戦闘機。/ 略
あのながい塀のうちは/ 屈従、/屈従、/屈従、/ どんな恥も/ 屈従よりはいくらかましだ。/ いなずま。/ いや、そうじゃないよ。あれは、/ 誰かが白鶴となって朝空に舞い上るため/ 自分の顔に、たまをうちこんだのだ。 昭和19年8/7作
詩集・落下傘より『寂しさの歌』抜粋編集
どっからしみ出てくるんだ。この寂しさのやつは。/ 夕ぐれに咲き出たような、あの女の肌からか/ あのおもざしからか。うしろ影からか。…略
寂しさに蔽われたこの国土の、ふかい霧のなかから、/ 僕はうまれた。…略…
うつくしいものは惜しむひまなくうつりゆくと、詠嘆をこめて、/ いまになほ、自然の寂しさを、詩に小説にかきつづる人人。/ ほんとうに君の言うとおり、寂しさこそ国土着の悲しい宿命で、寂しさより他なにものこさない無一物。
だが、寂しさの後は貧困。水田から、うかばれない百姓ぐらしのながい伝統から/無知とあきらめと、卑屈から寂しさはひろがるのだ。…略…
かつてあの寂しさを軽蔑し、毛嫌いしながらも僕は、わが身の一部としてひそかに執着していた。 …略
遂にこの寂しい精神のうぶすな(産土神)たちが、戦争をもってきたんだ。/ 君達のせいじゃない、僕のせいでは勿論ない、みんな寂しさがなせるわざなんだ。 寂しさが銃をかつがせ、寂しさの釣り出しにあって、旗のなびく方へ、/ 母や妻をふりすててまで出発したのだ。/ かざり職人も、洗濯屋も、手代たちも、学生も、/ 風にそよぐ民(タミ)くさになって。
誰も彼も、区別はない。死ねばいいと教えられたのだ。
ちんぴらで、小心で、好人物な人人は、「天皇」の名で、目先まっくらになって、腕白のやうによろこびさわいで出ていった。/ だが、銃後ではびくびくもので/ あすの白羽の箭(ヤ召集令状のこと)を怖れ、/ 懐疑と不安をむりにおしのけ、/ どうせ助からぬ、せめて今日一日を、/ ふるまい酒で酔ってすごそうとする。/ エゴイズムと、愛情の浅さ。/ 黙々と忍び、乞食のように、/ つながって配給をまつ女たち。/ 日に日にかなしげになっていく人人の表情から/ 国をかたむけた民族の運命の/ これほどさしせまった、ふかい寂しさを僕はまだ、生まれてからみたことはなかったのだ。/ しかし、もうどうでもいい。/ 僕にとって、そんな寂しさなんか、今は何でもない。
僕、僕がいま、ほんとうに寂しがっている寂しさは、/ この零落の方向とは反対に、/ ひとりふみとどまって、寂しさの根元をがつきと つきとめようとして、世界といっしょに歩いているたった一人の意欲も僕のまわりに感じられない、そのことだ。そのことだけなのだ。昭和20年5/5作
『答辞に代えて奴隷根性の唄』
奴隷というものには、/ ちょいと気のしれない心理がある。/ 自分はたえず空腹でいて/ 主人 の豪華な献立のじまんをする。 奴隷たちの子孫は代々/ 背骨がまがってうまれてくる。/ やつらはいう。/ 『四足で生まれてもしかたなかった』と
というのもやつらの祖先と神さまとの/ 約束ごとを信じこんでいるからだ。/ 主人は神さまの後裔で/ 奴隷は、狩犬の子や孫なのだ。 だから鎖でつながれても/ 靴で蹴られても当然なのだ。/ 口笛をきけば、ころころし/ 鞭の風には、目をつむって待つ。 どんな性悪でも、飲んべでも/ 陰口たたくわるものでも/ はらの底では、主人がこわい。/ 土下座した根性は立ちあがれぬ。 くさった根につく/ 白い蛆/ 倒れるばかりの/ 大木のしたで。
いまや森のなかを雷鳴が走り/ いなずまが沼地をあかるくするとき/ 『鎖を切るんだ/ 自由になるんだ』と叫んでも、
やつらは、浮かない顔でためらって/ 『ご主人のそばをはなれて/ あすからどうして生きてゆくべ。/ 第一、申訳のねえこんだ』という。
『そろそろ近いおれの死に』
前略… そして 古い仲間は残り少なになった。/ 噂をきくとよほど前に奴は死んだと言ふ。/ だがその噂をきけない程、隔たった奴もいる。/ 香華をあげるって?冗談じゃない。/ 俺だったら、怒るにちがいない。/ 死んだら忘れてもらいたいものだ。/ 淋しくないかって?それも飛んでもない。/ 生きている時だって いつも独りで、/ 不自由なおもひをしたことはない。
孤独なんて 脂下がってる奴は、/ たいてい何か下心があって、/ 女共にちやほやされたい奴だ。
よくわかるって?/ 当り前さ。/ 俺だって、似たやぅな奴だったから/ そんな俺がいま死んだとしても/ 痴漢が一人、減っただけのことで/ 世の中さっぱりしたわけだ。/ 詩だって?それこそ世迷いごとさ。…略
仏の来迎も 神の天国も/ 昔からのぞんだこともないこの俺を/ しきたり通りの葬儀で送るつもりだ。/… 人間はお前たちより悧巧になって、/ お前たちを上手に利用しているだけだ。/ 安い賽銭で屍骸を押しつけるだけだと。
『いちばん高い塔の歌』 ランボーの金子光晴訳
束縛されて手も足もでない/ うつろな青春/ こまかい気づかいゆえに、僕は/ 自分の生涯をふいにした。/ ああ、心が一すじに打ち込める/ そんな時代は、ふたたび来ないものか?…後略
『永遠』 ランボー金子光晴訳
とうとう見つかったよ。/ なにがさ? 永遠というもの。/ 没陽といっしょに、/ 去ってしまった海のことだ。…後略
☆ 人間の実(ジツ)を、えぐり出してくれた詩人か? あんた、かっこつけてんじゃないよ!と、言われそう。
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