◎『資本主義の終焉』を看破したエコノミストが描く、瞠目の近未来図 表紙帯より
・「…13世紀初頭に始まった資本主義が最終局面を迎えている・投資をしても利潤を得ることが極めて困難な『資本主義の終焉』という『歴史の危機』において、利潤獲得が難しいゆえに、資本の側が、わずかでも利潤が得られるのであればとあらゆる国境の壁を越え、なりふりかまわぬ『蒐集』をおこなうようになってきた・・・これがグローバリゼーションの正体・・」
・「元来、国家が市場を適度に規制するなどによって保護されて来た社会の安定が、『惨事便乗型資本主義ショック・ドクトリン』も厭わないグローバルな資本の動きによって脅かされる。そうなると、国内の格差や貧困という形でしわ寄せを食うのは、『99%』という言葉で象徴される一般の国民です。」
・「利潤の低下は社会のシステムを大きくゆさぶります。・・・21世紀の超低金利-人類史上最長の超低金利-は、『実物投資空間』からは、もはや資本を蒐集することができなくなったことを示す・定義上、『資本主義の終焉』ですが、だからこそ、資本の側は、なりふりかまわぬ『蒐集』をおこなう」
・実質賃金と企業利益の推移のグラフで明瞭・・「21世紀に入って、明らかに両者は逆方向に動いている・資本と家計が、日本という国民国家のなかでの運命共同体であるとは幻想になった・・・資本の利益と国民の利益とは相反するようになり、国家は資本の言うなりになっています。つまり、国民国家の解体が進行し、国家は国民に離縁状をたたきつけ、資本の下僕になったのです。」「向かい合うべき真の問いは『もはや、国民国家を維持することはできない。ではどうするのか』ということなのです」
・「資本と国家(国民)が円満な結婚生活を送るためには、・経済成長が必須条件です。・経済成長が止まれば、民主主義と資本主義の両立はできなくなります。」
・『利潤追求の企業が社会秩序を乱す』-「・・・生産力が『過剰』になれば、もはや需要を新たに生むことはなく、不良債権が生まれるだけです。10年間国債利回りがマイナスになったということは、新規投資をすると既存の資産が不良化するというサインなのです。・・・あくなき利潤を求める企業が、安定した社会秩序を乱す存在にまでなってきています。『日本株式会社』である東芝が不正会計をおこない、『ドイツ株式会社』であるフォルクスワーゲンが不正ソフト問題を起こしました。不正を行わなければ、株主の期待する利益が計上できないし、ユーザーの求める低燃費が実現できない。企業の不正が後を絶たない時代になりました。」
・「・・・日本がなぜ成長できないのかといえば、『実物投資空間』が閉じたことで生産数量が伸びなくなったうえに、新興国の台頭による交易条件の悪化を受けているからです。
・「・・・ついに20世紀末のIT革命では全地球を覆いつくしました。印刷も動力も、ITもすべて『より遠く、より速く』の一直線上にある技術なのです。しかし、1970年代半ばの段階で、すでに動力革命の果たす役割は終わっていました。地球上からフロンティア(新天地・市場)が消滅すれば、どれだけ世界が『結合』しても、経済成長は起こりえません。・すでに『地球は一つ』に到達してしまっている以上、IT革命では実物経済の成長を起こすことはできないのです。」
・「エネルギー多消費は、日本のような工業国の交易条件をますます悪化させ、図11で示したように低成長を強いることになります。エネルギー多消費は21世紀の時代にもっともしてはならないことのはずですが、目先の成長に目がくらんでいるのです。」
・「およそ社会のあらゆる問題は技術によって解決できると考えるのが『技術進歩教』、・そして『技術進歩教』が経済と結びつくことで『成長教』が生まれたのです。近代は『成長がすべてを解決する』時代となることで、先進国の人々を熱狂的な『成長教』信者に変えました。・・・『成長教』の信者が、最後にすがるのが『技術革新』」
・「日本はすでに人口減少社会に突入しているのですから、実質GDPの成長率を指標にすること自体、時代錯誤の価値観です。」
・「1970年代にセブン・メジャーズによる石油支配が終わったことによって『地理的・物的空間』が縮小に転じました。そこで近代を終わらせ、新たな時代への準備に着手すればよいはずだったのに、アメリカは新たな『空間』をつくり始めてしまった。『電子・金融空間』で『世界の富がウォール街に蒐まる』システムが1990年代半ばに完成し、アメリカの金融帝国が出現したわけです。・・・強欲な資本主義は、リベラルな民主主義の土台となる『平等』を、そして『自由』さえ破壊します。」
・「ゼロ金利は『実物投資空間』では資本を増殖させることができないことの表明なので、資本主義の本質である『ショック・ドクトリン・惨事便乗型資本主義』が大手を振って登場してきたのです。
・「平時の金利はおよそ2~5%・・・・・日本の金利は、人類の5000年にわたる『金利の歴史』のなかで特筆すべき異様な出来事、『例外状況』です。」
・「政府も日銀も、デフレから脱却できないのは外的環境のせいだとして、言い訳に終始しています。『平時』だった金利水準に戻りたい、すなわち近代に戻りたい、という『近代引きこもり症候群』にどうやらかかっているようなのです。」
・「日銀が手にした徴税権-・・つまりマイナス金利とは、実質的に資産課税に等しいのです。・・・民主主義の破壊に」
・「・・・こうして『安全国家』は、国内に恐怖をつくり出すことで、自身の存在理由を維持するようになる、とアベンガンは言うのです。・・・長引くデフレという経済危機に際して、安倍政権と日銀が決定した異次元の金融緩和とは、経済における『緊急事態宣言』です。デフレ脱却を最優先するアベノミックスは、経済成長しないと社会保障が維持できない、と恐怖をあおります。・・・いつでもマイナス金利が可能だという状態は、結果的にデフレ・マインドを醸成する効果をもたらしています。いわば政府と日銀は、デフレをつくりながらデフレ退治を宣言するというマッチポンプを演じているわけです。」
・「デフレや超低金利も、今や世界的な現象であり、一国の経済政策で克服できるものではありません。しかも巨大なグローバル企業の力が、国家を凌駕しようとしている。国民国家の秩序を崩壊させる点で、グローバル企業とグローバル・ジハード(テロ)は表裏一体の現象であり、それを引き起こしたのがグローバリゼーションなのです。もはや国民国家にはそれらを予防する手立てはありません。だからこそアベンガンが警告するように、国家が恐怖を自作自演するという悪夢が現実味を帯びてくるのです。」
・「ヤマト運輸の事例・2016年3月期、それまで基調としていた増収増益が増収減益に転じました。売上高を追求すればするほど、利益率が低くなっていく逆説が常態化しているのです。」「利潤を得ようと投資すればするほど、将来、大きな負債を抱え込んでしまう。わずかな利潤を得るための競争に勝とうとすれば、悪魔のささやきにもついに耳に貸してしまう。成長が収縮を生むようになったのです。金利ゼロ=利潤率ゼロの時代に成長を求めると、いったい人間の幸福とは何なのかわからない、こうした資本主義の矛盾に直面することになるのです。」
・「世界中で資本主義は、機能不全に陥ってしまっています。生命の安全、信義、財産の保護の三つが秩序形成の基本ですが、利潤を獲得しようとして資本主義を維持・強化しようとすればするほど、国民生活は一段と不安定化するのです。テロが起こり、生命の安全はおかされ、企業は不正をおこなって信義を裏切り、マイナス金利で国民の財産は承諾もないまま徴税されることが可能になりました。・・・国民国家も資本主義も、もはや賞味期限が切れてしまっているのです。」
・「ピケティの指摘・『20世紀に過去を帳消しにし、白紙状態から社会再始動を可能にしたのは、調和のとれた民主的合理性や経済的合理性ではなく、戦争だった。』・・『近代的成長、あるいは市場経済の本質に、何やら富の格差を将来的に確実に減らし、調和のとれた安定をもたらすような力があると考えるのは幻想』・・・近代・仮に高い理想を掲げたシステムであっても、理念を神棚にしまい込んで、現実には不平等を拡大してきたとすれば、それを終わらせるのが21世紀の課題なのです。」☆歴史のリアリズムですか!
・「こうしたことを直視せず、成長至上主義にしがみつうとすればするほど、政治的にも経済的にもリスクが高まり、社会の秩序は崩壊に向かいます。」
・1990年代に現れた二つの『非公式の帝国』-・・・アメリカ金融・資本帝国とEU帝国
・「アメリカ金融・資本帝国は、・土地に制約されず『電子・金融空間』に立脚、アメリカという土地に立脚しない、無国籍の『資本帝国』と呼ぶほうがふさわしい。・・・アメリカ選挙で起きた・当のアメリカ国民国家の秩序を崩壊させることになってしまったのです。☆トランプ」
・「EUは、ヨーロッパに限定された『有限空間』を前提とし、世界帝国を目指していないという意味では新帝国、土地に立脚しているという点で旧帝国。」
・「近代の出発点において『空間』と『時間』は有限だという考え方(中世)から、無限だという考え方に、思想上の大転換が起きたということです。『長い21世紀』においては、近代の出発点と正反対の動きが生じて、それが『閉じた』帝国化に向かわせているのです。『無限』だという前提が消滅したのでから、『閉じる』方向に向かうしかないのです。」
・「1559年(カトー・カンブレッジ条約)に匹敵する『躓き』が『長い21世紀』の1991年にふたつ起きました。一つは東のソビエト連邦解体、もう一つは西側陣営の日本のバブル崩壊です。どちらも、信用力の崩壊です。前者が社会主義国における国家の信用力崩壊(ルーブルの無価値化)であり、・・・。20世紀の初めに誕生した社会主義国家も生産力の増加を目指すという点では、資本主義と同じです。・・資本主義も社会主義も元をたどれば、キリスト教の『蒐集』という思想にその起源を求めることができるからです。・・・『未来へむけてのスタート』を切ろうという意思がない点で、1991年は未完です。完結するには、日本が『より近く、よりゆっくり、より寛容に』に向かってスタートを切ることです。これが21世紀の日本のポスト近代戦略の土台とすべき原理なのです。」
・「アメリカ金融・資本帝国の基盤つくり、従属していった日本。離脱したドイツ。・・・機を見てはアメリカが世界に押し付ける経済ルールに対抗しようという姿勢が欧州にはずっとあったのです。 ・・・ユーロをつくることで、ドイツはアメリカの資本帝国から、距離を置くことに成功したのです。・・・『閉じていく』プロセスの途上にあるEU。」
・「21世紀の中華帝国?・・・中国の抱えるもっとも深刻な問題のひとつは過剰生産力であって、株式バブル崩壊ではない・・・毎年の過剰な設備投資の帰結です。」
・「中国の景気後退が問題なのは、日本のバブル崩壊後の『失われた20年』とは異なり、世界経済全体に大きな影響を及ぼすということです。その理由は、中国がグローバリゼーションの最終局面の真っ只中で日本を上回る過剰生産力を積み上げたことに求められます。・・・設備バブルの崩壊はこれからやってくる・・・そうなると、中国が待ち受けているのは、バブル崩壊後の日本と同様、長期にわたるデフレや低金利です。その影響は他の新興国のみならず、先進国にも及びますから、世界デフレが半永続的に進行する。・・投資機会の消滅に向かっている」
・「国家を自由に瞬時に超える巨額のマネーについて、ひとつの国家ではまったく手に負えなくなっており、バブルを多発させたり、資源価格を高騰させたりする過剰マネーをコントロールする世界的な公的機関は存在しません。『パナマ文書』でその一部が明らかになったように、グローバル企業が租税回避手段を駆使していても、それを管理・抑制する『世界的公共性の担い手』はいないのです。それどころか、資本主義国家の中枢であるシティやウォール街がタックス・ヘイブン化しているのが現状です。」
・「平等が要請される国民国家システムと格差を生んで資本を増やす資本主義が矛盾を露呈することなく両立できるのは、『実物投資空間』が無限で経済が成長し続ける場合においてのみなのです。」
・「そして、現代はフロンティアなき時代です。人々の認識も『無限空間』から『有限空間』へと変わりつつあります。このときに『閉じる』という知恵がなければ、世界秩序は崩壊へと向かっていくことでしょう。しかも『資本主義の終焉』が、主権国家システムにも『死亡宣告書』を突きつけている。だからこそ、『閉じた帝国』の時代が近づいていると言えるのです。・・・」そうであれば、『無限空間』を失った私たちにとってのヒントは、『有限空間』を前提にしている中世にあるのではないでしょうか。」
・「しかし、今の時代に中世的現象が多くしょうじていることが、そのまま中世回帰の肯定を意味するわけではありません。『悪しき中世』的現象もすでに起きつつあります。・・・ピケティが指摘した『新しい世襲資本主義』や国際NGO団体オックスファムが言う『縁故資本主義』が横行しているのです。・・・重要なことは、中世システムの長所・短所を参照しながら、近代システムが抱える困難を克服するようなモデルを粘り強く構想していくことです。」
・「『地域帝国』の時代-・・・地域帝国と地方政府の二層システム・・・、ブルの『国際社会論』が手がかり」とか・・「このように、『地域帝国』と『地方政府』の二層からなるシステムは、どちらも『有限』であり、膨張しないことを特徴としています。」
・「資本主義でない『市場経済』を取り戻す-・・・21世紀の経済システムに信頼を取り戻すためには、『閉じた経済圏』で市場経済を再構築することが不可欠なのです。」☆大雑把で、私には、難解、ブルの本読む?
・「日本の決断-近代システムとゆっくり手を切るために-・・・『より遠く、より速く、より合理的に』という近代の理念が限界に達しているのですから、その逆をおこなうしかない。つまり、『より近く、よりゆっくり、より寛容に』です。その意味で、これから日本が、『新中世』に移行する際には、『ゆっくり』と事を進めていくしかないと思います。」
・「現在の世界のなかで、ポスト近代を模索しているのはEUだけです。そのEUとの連携を(日本が)深めることが、ひいてはポスト近代への準備を整えることになるはずです。・・・『閉じた地域帝国』を実現するには、成長至上主義と決別し、定常状態への移行を遂げねばなりません。」次の三つのハードルのクリアが必要 ①財政の均衡 ②エネルギー問題 ③地方分権……、ゆっくりとでもよいので近代システムと手を切る決断が必要です。未来の姿は形を現わしてきません。ただ、どちらの方向に舵を切るのか。その選択権だけは、私たちの手にあるのです。」ラスト
◎おわりに-茶番劇を終わらせろ
・「日本とドイツのゼロ金利は資本の希少性から解放されたということに加えて、エネルギー問題の観点から見ても『資本主義の終焉』はのぞましいことなのです。・・・フロンティアが消滅した現代では、成長を追い求めれば追い求めるほど、民間企業は巨大な損失を被り、国家は秩序を失ってしまうのです。かのケインズも、道徳哲学の上に成り立つ学問・モラル・サイエンスとしての経済学を提唱しましたが・・・しかし、『過剰』なまでに資本を蓄積するのが資本主義の本質なのであって、『倫理』は資本主義、あるいは経済の外に求められなければなりません。」
・「21世紀の現在、資本を『蒐集』すればするほど、能力差では説明できないほどに格差が広がっています。」
・「とはいえ、『閉じた帝国』という中世回帰の動きは始まったばかりであり、建前上は主権国家システムが継続しています。近代を維持・強化しようと考える勢力と、ポスト近代への移行を目指す動きとのせめぎあいがおきているのです。その機能不全が『歴史における危機』となってあらわれているのが現在の状況です。」
・「ケインズが資本主義の先にあるものとみなした『愛(人間交流の楽しみ)、美(美しきものに接すること)、真(ケンブリッジ知性主義)』・・・そして主流派経済学者も政府も、『愛、美、真』や『人間の生き方』にはまったく無頓着で、人口=労働力と捉えて、供給力の減少を阻止するための『一億総活躍社会』と『働き方改革』を叫ぶばかりです」
・「アメリカとともに成長教の茶番劇を演じ続けるのか、ポスト近代システムの実験へと一歩を踏み出すのか。世界的ゼロ成長が完成しつつある今、も0日本は危機の本質に立ち戻って考えなくてはならないのです。」ラスト
☆大胆な、大きな歴史の流れを見つめての、多くの著作を吸収しての、経済文明論、ですね。多くの示唆に富む!
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